大海の一滴

私は去年の旗揚げ第一戦を見ていないし、有明コロシアムは2回共行かなかった。
だからNOAHのビッグマッチは、今日の武道館が初めてと言って良いと思う。
何かが尋常でなかった。選手も観客も。
必要以上に合理化された前半の進行も演出も、ところどころに一見の客が見うけられたことも。
初めて観戦する客に文句をつける気はない。ただ、その人達が初めて見る選手や技に驚き歓声をあげる度に、私はどんどん醒めて行った。
初観戦のときは私も同じような感想を持った。ただし、私が惹きつけられたのは全日本プロレスのそれだった。
今日リングの上にあったのは、同じ物だった、少なくとも私には。
NOAHって一体、何なんだろう。
メインの試合を見ながら、私はついに一度も声援を上げることがなかった。

断じて言うが、三沢が負けたとか秋山が勝ったとか、そんなレベルの話じゃない。
凄い試合だった。武道館が揺れた。だけど、私が見たいのはこれじゃない。
ファンになるのが遅かったせいでついに見ることのできなかった四天王プロレスが、今日のメインで再現された。
トップロープからのタイガードライバーで、違和感の元が分かったような気がする。
これは選ばれた者のみが出来るプロレスだ。私は天才とか、努力の末に到達した者に興味はない。
そこへ到達しようともがいている姿を見たいのだ。完成品より、制作過程に惹かれるのだ。

昨今、冗談めかして「方舟を降りる」と言って来たが、今夜の私は16000人の海の中、救命ボートで漂流している気分だった。
私の場所は、ここではないかもしれない。今日のメインを見て感じたことがあるとすれば、それに尽きる。